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インタビュー

「ラーメンを世界共通言語に」世界へ展開する日本発・博多ラーメン店「博多一風堂」。海外市場で拡大するラーメン業態で勝ち続ける秘策とは?河原社長を直撃インタビュー!

日本全国とアメリカ、アジア、オーストラリアなどでラーメン店「博多一風堂」ブランドを展開する(株)力の源カンパニー(代表取締役:河原成美氏)。今やラーメン業界を代表する「博多一風堂」。国内店を増やす一方で、精力的に海外への進出を行なう河原氏に、アジア圏を中心とした出店戦略、展開などのお話を伺った。


—まずは、アジア圏でのこれまでの出店経緯をお教えください。

2004年の中国・上海がはじめで、2006年の終わりまでに一風堂ブランドではないラーメン店を計8店鋪出店しました。この時は合弁での出店でしたが、のちに解消しました。
その後、一風堂としての海外初店舗となったのが、2008年に独資で出店したニューヨーク「IPPUDO NY」です。アジア圏では翌年にシンガポールに独資で出店しました。マンダリンに1号店「IPPUDO SG」を、UEスクエアに2号店「IPPUDO TAO SINGAPORE」を出店しました。2号店は1号店の出店時にすでに決めていました。当時、ニューヨークで2号店がなかなか出店できない状況で、その経験からシンガポールでは2店鋪を決めてスタートしようと考えたのです。
韓国では2011年にライセンスで「IPPUDO SEOUL」を出店しています。ただ、海外での展開は独資かジョイントベンチャーの方が良いと分かったので、今後、ライセンス契約での海外進出は考えていません。
以前から関心があった香港には、現地最大手の外食企業であるマキシムグループ(現地企業名:美心集團)にアプローチして、2011年に合弁会社を設立しました。2012年には、香港「IPPUDO HK」と上海「IPPUDO SH」をオープンし、アジア圏では14店鋪を展開しています。

シンガポール1号店 IPPUDO SG 外観
シンガポール1号店 IPPUDO SG 外観

—独資と合弁での展開についてはどのようにお考えですか? また、アジア圏で出店する場所はどういった国を選んでいますか?

独資だと意思決定が早く、自社の企業文化を守っていきやすいといったメリットがある一方で、法的な規制などでビジネスの展開が難しい国があります。現地の食に関する法規制にはどのようなものがあるのか、そこから勉強しなければならないため、独資だとこの点がコストになります。
また、中国は法律以前の問題で、施工業者や物件契約で難儀すると思います。当社では設備に関してはジョイントベンチャーに任せています。そうした点で現地のことを熟知している企業と組む利点は大きいのです。もちろん、必ずしもジョイントベンチャーがいいというわけじゃないんですよ。組む相手を見極めないと失敗してしまうのでね。
出店場所に関しては、政治が安定しているかどうかを重視します。また、香港、上海、シンガポールなど、世界経済の中心に位置する国際都市は押さえておきたいと考えました。その意味ではアジア圏の展開をシンガポールから始めたのは大きかった。シンガポールは人種が多様であり、情報発信という面でも重要な都市です。
中国はマーケットが大きいので出しておかなければと思うんですけど、政治や食品衛生の問題などリスクも大きい。最悪のシナリオが現実化したら、合弁企業に売却すべきだと考えています。

—では、実際にアジア圏出店時、営業後の大変さはどんなところにありますか?

シンガポール1号店 IPPUDO SG 内観
シンガポール1号店 IPPUDO SG 内観

私の役割は出店地の視察ぐらいです。中国はジョイントベンチャーが物件情報を持って来てくれるので、最終的に私が判断を下します。
決断のときに大切にしているのは、数字などの条件ではなく、やはり勘です。街の空気感とか、雰囲気とか……。実際、綿密なリサーチをした場合と、勘で決めた場合と、成功する確率は変わらない。これまでかなりの出店場所を見極めてきましたから、経験に裏打ちされた勘は意外と頼りになるんですよ。
現在、メニューの食材は数社の商社と取り引きしながら、ラーメンスープの原材料も含めて、すべて現地調達しています。スープの原材料となる豚頭は、中国では手に入りにくかったですね。それから「はじめに持ってきた肉のサイズとそれ以降に持ってきた肉のサイズが全然違う」なんてことは日常茶飯事で(笑)。こういうのは日本の基準で考えてはいけないんですよね。当たり前に指定した材料が揃うということだけでも、なかなか難しいことです。それを理解した上で、現地の感覚で進めないと。
例えば、(株)凪スピリッツの生田智志君は、香港で合弁で出店したけど契約不備で全部取られてしまって、当時「河原さん、僕やられちゃいましたよ~」なんて言っていましたけど、今でも店鋪を増やして成長し続けています。そのくらいの精神力がないと海外出店はできません。失敗しても、「成功するまで挑戦し続ける」くらいのパワーがないと。商売の大変さは国内でも海外でも一緒。意地でも壁を乗り越えていく、その心意気が大切なのだと思います。

—逆に、海外出店で得られたメリットとしては、どういったことがありましたか?

日本食としてのラーメンの認知度と、「博多一風堂」ブランドの認知度が高まったことですね。日本を訪れる海外の方が「博多一風堂」のことを知っていて、来店してくださることも増えてきました。「ラーメンといえば博多一風堂」という認識が浸透してきていることが大きいのでしょう。

—次に、アジア店鋪の業態や特徴をお教えください。日本と海外店鋪にはどういった違いがありますか?

ラーメン店というよりは、レストラン色が強いですね。前菜があり、サラダがあり、メインの日本食があり、そしてラーメンを食べてデザートで締める。当社で13年前に出した「中華麺酒家 五行」の業態に近い、ラーメンレストランという感覚ですね。シンガポールのUEスクエアでは焼鳥も出しています。ラーメンは日本食のなかの一つという認識があるので焼鳥、寿司、刺身、日本酒という日本食の王道は、メニューとして外せません。
客単価でいうとシンガポールは日本円で2,200円、中国は1,000円位です。中国にしては高い客単価ですよ。逆にそのぐらいで推移していくのがいいと思っています。ただ向こうは物価が上昇しているので、やがてそのくらいの値段に追いついてくるのかなと予想しています。
シンガポールのUEスクエアは居酒屋という認識が強く、まだ売上げに伸び代がある。近々、外装を変えてもう少し集客できるようにしたいと考えています。
現在、各店舗の年商は1億5,000万円ほどです。よいところで2億5,000万円。この1億5,000万円~2億円が適正な年商だと考えています。「この店、流行っているな」と目に見えてわかるくらいの売上です。ただ、それを当たり前と思って10年20年はやれません。5年10年で売上が頭打ちになっていくことを考えながら、次々と新しい手を打っていく必要があるでしょう。

—企業としての今後の展開をお教えください。

今年は上海や香港で5店のオープンを控えています。台湾でも3~4号店をオープンします。2013年12月で、アジア圏は計26店鋪になる予定です。この先10年は海外で年間20店鋪の出店ペースを崩さずにいこうと思っています。
一方、世界中のラーメン店は少なくとも1,500店鋪以上はあるでしょう。そうした規模の広がりからも、最近の海外企業はラ―メン業態に対してネガティブですよ。だって1つのフードコートで2~3軒のラーメン店がしのぎを削っているんですから。
私自身、この流れが続けばラーメン業態はあと3~4年で市場が飽和することも想定しています。ですので、2020年に向けて日本食のコンテンツをもう一度ブラッシュアップすることも考えています。


ニューヨーク1号店 IPPUDO NY 外観
ニューヨーク1号店 IPPUDO NY 外観

ニューヨーク店 IPPUDO NY での行列
ニューヨーク店 IPPUDO NY での行列


—最後に、これから世界を目指す経営者に一言お願いします。

まず「お金だけ稼ぎたい」という人は海外出店には向いていません。一方で失敗しても、どうにかして事業を立て直そうという考えと体力がある人は、ずっと続いていきますよ。生田君の例がそうですよね。 日本人は失敗から学びながら継続していくから強い。自分の失敗や立ち位置を理解できない人は、海外で事業をすべきではないと思います。
それを踏まえて、人生は1回だから、自分が正しいと思うことをチャレンジしてください。もちろん、しっかりと勉強して、成功する見込みがあるかどうかを、しっかりと判断しなければならない。
海外には夢があるし、可能性もあるからね。どうせやるなら少なくとも10年のビジョンを描いてください。僕は96年に上海で一回失敗したことに対して「一回失敗したのにまたやるのか?!」とたくさん言われました。けど「失敗しとらんばい!」と(笑)。一回行ってダメだったから諦めるなんてもったいない。しっかり10年先を見据えることで、失敗しても次の道を考えることもできると思います。
海外で成功した時に「あたったね」と言う人がいましたけど、「あたったんじゃない」んです。続いてなんぼなんですよ、外食は。日本人は計画性があり、粘り強さと辛抱強さを持っています。そういう”らしさ”を前面に打ち出していけば、海外での事業が成功する可能性はグンと上がると思います。

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